『神の値段』By 一色さゆり

『神の値段』! 題名からしてすごい重みを感じますよね。華やかな芸術の世界と、芸術をビジネスとする裏の世界を背景にして起こる殺人事件。マスコミの前にも美術関係者の前にもけっして姿を現さない画家、川田無名は、果たして生きているのか、亡くなっているのか、謎が謎を呼ぶミステリーの連鎖。その作家の最高傑作が巻き起こす大旋風に読者は翻弄され、予測のつかない展開にうろたえてしまう。夢中になってアッという間に読んでしまいます。美術館に行ってみたくなるかもしれません。2014年、第14回『このミステリーがすごい!』大賞・大賞受賞した作品です。

あらすじ

主人公の田中佐和子は、都心の一等地に店を構えるギャラリーに勤務している。たまたま知り合ったやり手のギャラリストである永井唯子に誘われて彼女の元で働くことになったのだ。そのギャラリーで扱われているのは、川田無名という巨匠で、墨をつかったインクアートで現代美術の世界的権威を誇っていた。日本人と中国人のハーフで、かつてニューヨークで活躍していた頃に、抽象表現主義の新たな展開として脚光を浴びるようになった。ある日、10億円はくだらないと思われる川田無名の作品がギャラリーに運び込まれてきた。しかし、その翌日、永井唯子が自社倉庫で倒れているのが発見され、病院に運ばれたが死亡。首を絞められた跡があったため、警察が殺人事件として捜査を開始した。作家の川田無名から事情を聞こうとするがどこにも姿がない。作品の中には絵画のコレクターやお金持ちなど様々な人が描かれている。犯人に関するヒントが文面のところどころに隠されており、あっと息をのむ展開が待っている。

いっさい姿を現さない画家

川田無名という作家は、作品の中に一度も姿を現さない。彼の姿を見たことがあるのは、ほんの数名で、その人物が述べる描写だけで、読者は謎めいた人物を想像するしかない。常に無名と会っていた人物は永井唯子であったが、亡くなってしまったため、謎は深まるばかり。容姿や性格に関しては何も書かれていないのに、想像が膨らむ。芸術一筋で一心不乱に生きてきた人だと分かる。きっと、髭ボーボーで髪は伸び放題、眼光が鋭く、ひょろりと細い体で、猫背の仙人みたいな人かな、と、私的には想像を巡らせた。最後まで、生きているのか亡くなっているの分からないので、雲をつかむような存在。作中の重要人物でありながら一切姿を現さないのに、強烈なインパクトを持っている。作者の凄腕がきらりと光ります。

キャラクター

主人公の田中佐和子と一緒に仕事をしている同僚の松井という男性はお姉系でちゃかり者。永井唯子は、自分の利益しか考えてないような冷たい人間のように見えるが、安月給で雇っている佐和子に誕生日のプレゼントとしてシルバーのネックレスを手渡したり優しい面ときつい面を持ち合わせている。絵画のコレクターも、ただのお金持ちだったり、川田無名の熱烈なファンだったりして、佐和子とのやり取りの中で、独特のキャラクターを現しているのが面白い。

一色さゆり

1988年、京都府生まれ、東京芸術大学芸術学科卒業ののち、香港中文大学大学院美術研究科修了。現在は学芸員として美術館に勤務。2015年、第14回『このミステリーがすごい!』大賞・大賞を受賞し、2016年に本作品でデビュー。

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