パラレルワールド・本当の自分に出会う

みなさま、こんにちは! もしもあの時違う道を選んでいたらどうなっていたんだろう、と考えることはありませんか? 今日は、人生に行き詰った主人公が、仮想世界の自分に出会い、自分の姿を見つめ直すお話しを作りました。

俺は荒川弁護士事務所の弁護士だ。名前は原田憲太。三十八歳。子どもの頃、俺の友人の父親が誤認逮捕され六カ月も身柄を拘束された。家族はノイローゼになりそうなほど苦しんだ。しかし、一人の弁護士によって無実が証明された。その時、俺は弁護士になると決めたんだ。友人の家族はさほど金持ちでもなく、むしろあまりよい経済状況の家ではなかった。どの弁護士も貧乏人が依頼した銭にならない仕事なんて引き受けたくない。でも、あの時の弁護士さんだけは、真剣に取り組んでくれたんだ。

 

親父は俺が弁護士になるのを反対したよ。俺の実家は由緒ある薬屋だったから、おふくろも親父も俺に薬剤師の免許を取ってほしかったんだ。だけど、俺、力の限り頑張って慶応大学の法学部に入った。三年も浪人してしまったよ。それでも、もう十年以上も弁護士をやってる。いろんな事件を経験させてもらったから、お金もたくさんあるし、ほら、この時計、500万だぜ。このスーツだって一流ブランドさ。

 

今の俺の悩みは結婚できないこと。もてるんだけどなぁ。騙されてばっかりで、つい一週間前も美人の彼女と別れたばかり。エルメスのバッグとかね、色々あるでしょ、ほら、視力検査のCの文字が背中合わせになったようなヤツ、なんだっけ? あっ、シャネルってやつだよ。いっぱい買わされて、利用されて、すぐにおさらばになっちまった。

 

俺のどこが気にいらないのか、さっぱり分からねぇ! 顔だってそんなに悪かないしね。 俺ってさ、道を間違えたのかなぁ。親の言う通りに薬剤師になって実家の薬局を継いでいたらよかったのかもな。三年も浪人しなくても、滑り止めの本山町大学にでも行ってさ、薬剤師やってたら今頃どうしてるかなぁ。今の俺は好きなものをなんでも手に入れられるけど、なんかさぁ、虚しいんだよ。

 

ある日の夜、何気なくインターネットを見ていたら、不思議なサイトが目に入ったんだ。サイト名は「パラレルワールドへようこそ」と書いてある。経営者は株式会社トレードエピソードとなっている。

 

道を間違えた、と思っていらっしゃるあなたに朗報です。
あなたが選ぼうとしていた道をもし選んでいたら、あなたはどうなっていたのでしょう。
もう一つの世界にいる自分と会ってみたいと思いませんか?
もちろん、もう一人のあなたとの会話は可能です。
どんな暮らしをしているのか聞いてみたいと思いませんか?
もう一人のあなたのと面会時間は一時間、百万円からです。
ご希望のかたは、当サイトの会員になっていただきます。
申し込み用紙をお書きになったらこちらからメールにてご連絡致します。

 

俺は早速申し込みをした。三日も待てばメールが届き、株式会社トレードエピソードの中で、俺はもう一人の俺に会うことになった。本山町大学って、レベル低いんだぜ。俺って結婚しているのかなぁ。薬剤師になっているのかなぁ。会社に到着すると、ごくごく普通のなんの変哲もない会社だった。契約書にサインして約束の百万円を小切手で払った。俺はまるで社長室のようなゴージャスな個室に案内された。

 

ドキドキしながら待っていると、ドアをノックする音が聞こえて、受付の女性が入ってきた。続いて男性と女性が入ってきた。俺は息をのんだ。まさに俺だ! 間違いなく俺だ! 一緒に入ってきた女は誰だ? 受付の女性が二人を紹介した。「こちらが本山町大宅を卒業された原田憲太さん。そして、こちらが奥様の納言さんです」。あまり美人じゃないな。むしろブスだ。

 

もう一人の俺が俺に言った。
「おまえ変わったな。なんだその恰好は?」
「なれなれしく、おまえだなんて言わないでくれよ。俺は弁護士になったんだ。これは俺のお気に入りのスーツだ。そんなに派手か?」
「派手と言うよりも、ヤクザかと思ったよ。だって、その時計だって高そうじゃん」
「500万円だ。そんなことより、おまえ、薬剤師になったの?」
「ああ、実家の薬局を継いでいるよ。嫁ももらった」もう一人の俺は、嫁の顔を見てニコニコしている。どうしてあんなブスと結婚したんだろう? 全く俺の好みじゃない。
「お嫁さんはどこの大学を出てるの?」
「私は桃之山短大を出ています。専攻は食物栄養学科です。小学生の給食を作っています」
「へぇ~」なんだ、短大じゃん、俺は心の中でつぶやいた。
「おまえねぇ、へぇ~じゃないだろ? 彼女は料理がとっても上手なんだ。俺の大好きな唐揚げだってすっごくヘルシーに作ってくれるんだ」
「あっ、そー」
「ところで、おまえ、どうして俺を呼んだんだよ?」
「呼んだって?」
「呼んでるじゃないか! こうやってこの部屋にね」
「あっ、そうだ! 俺さぁ、頑張って三浪もして慶応大学の法学部に行ったわけよ。それなのに、三十八にもなってまだ独身。おまけに女に騙されてばっかりなんだ。俺のどこがいけないのか、おまえに聞きたい。それに、おまえが今、幸せかどうか聞きたいんだ」
「幸せにきまってるじゃん。俺は浪人するのをやめて本山町大学を選んだ。そして、薬局を継いでいる。そりゃー、おまえが羨ましいよ。だって慶応大学の法学部だからな。すごいと思うよ。だけどさぁ、ブランド大学を出ているから、だからなんなの? あの時の弁護士さん、覚えてるだろ? 誤認逮捕された人を助けた弁護士さんだよ。あの弁護士さんは、おまえよりもかなりレベルの低い大学を出ているじゃないか? おまえさぁ、弁護士になった理由をもう一度よーく考えたほうがいいよ。女にもてたいため? いい女と結婚するため? そんな高いスーツや車を買うため?」
「そんなことはない! 俺は困っている弱い人を助けているんだ!」

 

俺は興奮してつい大きな声になってしまった。もう一人の俺と女の体が同時にビクッと動いた。俺は内心、自分がおごり高ぶっていたことを反省した。両ひざに両手の握りこぶしを置いてしばらくうつむいていた。二人の顔をみることができなかった。しばらくして、ゆっくりともう一人の俺の顔を見た。なんと男の顔は天井に届きそうなほど大きく膨れ上がっていたんだ。やがて、パンという音と同時に男の頭部が割れた。割れた頭の中から大量のゴキブリが飛び散った。隣に座っていた女が、割れた男の頭にゴキブリを必死に戻していたんだ。俺、吐き気を催しちまったよ。うぇ~。

 

コンコン。「お時間です」事務員の声が聞こえると同時に、二人の姿がパッと消えて部屋の中は俺一人になっていた。

 

簡単に自分の夢を諦めたもう一人の俺は、後悔したのでしょうね。そして、弁護士の原田憲太さんは、これからは初心に戻ってがんばることでしょう。

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