正しい事と間違った事は神が決める

みなさま、こんにちは! 今日は、ある万引き犯をかばった男の話をします。これはフィクションです。この物語と実在する人物とは全く関係ありません。世の中は矛盾だらけで、何が正しくて、何が間違っているのか分からなくなることがあります。盗む事は人間界では犯罪ですが、神の目から見たら正しいと言えることもあるかもしれません。

俺はいつも貧乏くじを引く

俺は、いつものようにコンビニでアルバイトをしていた。名前は山田健太。俺はもう30歳。バイトなんかしている場合じゃないけど、なぜか、職を転々としている。会社務めは向いてないのかなぁ。いつも誰かにハメられて、いや、足を引っ張られるっていうかぁ、貧乏くじを引くっていうかぁ、つまり、利用されやすいタイプなんだ。俺は特にミスをしていないのだが、仕事をやめる羽目になってしまう。そして、いまだにバイトだ。辞めても辞めても職を見つけ続ける。とにかく金を稼がなければならない。俺の母親が癌になってからもう一年がたった。再発を繰り返して今に至る。後何年生きられるだろうか。せめて痛みを取ってやりたい。その一心で俺は少しでも多く稼ぎたい。

アル中の女

雪の降る寒い日の午後だった。俺の勤務は午後十時から翌朝七時までになっていた。九時半時頃自宅を出てコンビニに向かっていると、やけに酒臭い女が道端で子供をひどく叱りつけていた。子どもは頬を叩かれて火がついたように泣いていた。後で知ったんだけど、女と子供は親子であり、母子家庭らしい。女は暴力を振るう夫と離婚してパートで働いていた。ところが男にだまされて酒を飲むようになり、子どもを連れて悲惨な人生を歩んでいると噂されていた。子どもを叩こうとして振り上げられた女の手を、俺はつかんで言った。「やめてください」。痩せこけた子供の手に、俺はコンビニで食べることにしていたムスビを握らせた。女は子どもの手を引っ張ってヨロヨロしながらも立ち去って行った。チンピラ風の男が、「おい、安子!」と言って女に走り寄り、指を三本立てた。女は良からぬ仕事をしている様子だ。

同じ人とは思えない

翌朝七時頃、仕事を終えて帰ろうとした時、昨日の女がコンビニにやってきた。やけに背筋が伸びて姿勢がシャキッとしている。髪もきれいに整えて口紅もさしていた。昨日の女とは別人のようだ。でも、確かに昨日の女だ。女はパンと牛乳を素早くコートの内側に隠した。万引きだ。ちょうど他の店員はいない。女の事情を知っている俺は、女に声をかける気になれず、見逃してしまった。女はまんまとパンと牛乳をせしめて去っていった。身なりを整えていたのは怪しまれないためだろう。必死に演技をしているのが俺には分かった。児童相談所に届けたい、と思った。夜勤明けの重い頭を抱えながら、俺の足は児童相談所に向かっていた。ところが、女と子供のアパートの前に差し掛かった時、子どもの笑い声が聞こえてきた。窓越しに声を聴いていると、女と子供の会話が聞こえてきた。優しいお母さんと子供の普通の会話だった。俺の心は揺らいだ。そして、児童相談所に行くのをやめた。俺は自分のことで精いっぱい。入院している母親の治療費を稼ぐことに専念したい。

何度も続く万引き

女は何度もコンビニに来ては万引きを繰り返すようになった。女は俺の顔を覚えている様子だ。俺の目の前で平気で万引きをする。俺が見逃してくれているのを知っているのだ。女が来るたびに俺はハラハラしてしまう。店員は俺だけではない。今日のスタッフには、中原がいる。あいつに見つかったら最後だ。俺は女に1000円を渡して、二度とこのコンビニに来ないように言った。それでも女は万引きをやめなかった。きっと他の店でもやっているんだろうな。ある日の午後、中原がとうとう女の万引きに気づいたようだ。女がムスビをポケットに入れたのを、唐揚げのショーケースに身を潜めた中原が見ていた。ところが、中原は知らん顔をしている。どうしてだ? 中原は何を考えているんだろう?

俺はハメられた

俺はダメ人間。またハメられてしまった。中原のヤツ! 俺が万引きの女を見逃していることを店長に告げ口したのだ。職を失いたくない! 俺は、女を見逃していない、気が付かなかった、と主張した。しかし、店長は俺を全く信じてくれず、中原と一緒に女がやってくるのを待っていた。女が来ないようにする術は俺にはない。いつものように女がやってきて、あえなく御用となってしまった。女は窃盗で逮捕。子どもは施設に預けられることになった。俺も共犯者として逮捕されてしまった。俺の見逃し行為を女が自白して、俺も共犯者にされてしまったというわけだ。俺は何というお人好しなんだろう。この女、ロクなもんじゃない! 恩を仇で返すとはこのことだ。パトカーの中で女は俺に言った。「私はあなたが思っているような優しい人ではありません」。俺は母親の治療費を稼ぐことができなくなった。俺が刑務所に入っている間に、母親は亡くなった。

人生の再スタート

俺は刑務所を出てからというもの、孤独に耐えながら孤軍奮闘の人生を送っていた。やばい仕事もしながらやっとの思いで貯めた金で小さなスナックを経営している。結婚もした。女房と一緒に店を経営している。店は繁盛している。マイホームも手に入れることができた。自分がオーナーとなって仕事をするのもいいものだ。中原は、コンビニで副店長になり、お金を貯めて、自分でコンビニを経営するようになったと聞いている。俺を踏み倒して出世した男だ。ところが、ある日の夜十時頃のことだった。中原が俺の店にやってきたのだ。髭をボーボーに生やしている。髪はボサボサでまるで浮浪者だ。瞼は紫色に腫れ上がっている。誰かに殴られたものと思われる。これだけ風貌が変わっていても、俺にはすぐにヤツだと分かった。あれから20年もたった。俺は50歳になっていた。ヤツは俺に気づいていない様子だ。女房が注文を取った。中原は安いウィスキーをチビチビ飲みながら女房を相手に話しかけていた。経営していたコンビニは火事になり、近隣を巻き込んで大火事になったという。店をたたみ、今は安いアパートで独り暮らしをしているらしい。中原は警察に、放火事件として調査してほしい、と言ったが、警察は経営者の火の不始末として相手にしてくれなかったという。

ジュースを注文する女

午前0時を回った頃、中原は酔いつぶれて眠ってしまった。閉店するまで寝かせておいてやろう。女房が中原の背中にコートをかけてやった。ちょうどそのころ、不思議なことに、中年の女が入ってきた。注文はオレンジジュースだけ。ここは飲み屋だ。しかしながら、ジュースもないことはない。ある。注文のジュースを飲んでいる女はどこかで見たような気がしていた。必死に思い出そうとしが、思い出せない。しばらくすると、女は立ち上がり中原が眠っている席の横に立ったかと思うと、中原のコートをはぎ取って、床に投げつけ、コートを踏みつけた。俺も女房も声を失った。女はレジに進み、1000円を置いてうつむいたまま言った。「山田さん、私はあなたが思っているような優しい人ではありません」。まさか、あの火事は、、、、、

 

最後まで読んで頂きありがとうございます。このストーリーの続きは皆さまの頭の中で創ってください。人間界では間違っていることが違う視点から見ると間違ってないのかもしれません。

 

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